2022年05月27日
内外政治経済
リコー経済社会研究所 研究主幹・日本危機管理学会 副会長
元時事通信ワシントン特派員 中野 哲也
筆者、中野哲也は去る5月23日に急逝いたしました。謹んで哀悼の意を表します。
ロシアによるウクライナ侵攻(2022年2月24日)から3カ月が過ぎた 。連日、罪なき市民が容赦なき砲弾の下で逃げ惑い、一度きりの命に終止符を打たれ続ける。人間や国家、組織に潜む狂気の暴走をだれも止められないのか...。侵攻以来、テレビやユーチューブを見るたび、絶望の淵に何度も突き落とされた。
だが、絶望が未来を開くことはない。ジャーナリストの端くれとして禄を食(は)んできた筆者にも、何かできることはないか。そう思い立ち、「ハイブリッド戦争=見える戦争+見えない戦争」を切り口に小考を執筆した(本稿は筆者個人にすべての文責があり、当研究所や(株)リコーの見解を示すものではない)。
ロシア軍が支配・侵攻しているエリア (5月25日時点)
(出所)米戦争研究所
SNS(インターネット交流サイト)全盛の現代社会。ウクライナの惨状を伝える写真・動画は瞬時に国境を越え、地球を一周する。ミサイルと砲弾の嵐、戦車の行進、破壊された学校やアパート、非武装民間人の背後に向けられた銃口...。ネットフリックスが配信する映画ではない。すべて現実世界の出来事であり、こうした「見える戦争」が世界中の良識ある市民に悲しみや怒りをもたらし、西側諸国では親ウクライナ・反ロシア世論を醸成する。
長期化するウクライナ危機
(出所)ウクライナ政府の公式ツイッター(@Ukraine)
軍事史・戦争学の泰斗、ローレンス・フリードマン英ロンドン大学キングスカレッジ名誉教授も著書で次のように指摘する。「2007年にスマートフォンが使えるようになると(中略)軍事行動は透けて見えるものになってきたのであり、これまで指揮官が求めていたような秘密主義は、もはや不可能になったのだ」―。
「戦争の未来」(ローレンス・フリードマン、中央公論新社、2021年)
(出所)版元ドットコム
しかし、「見える戦争」は今回のウクライナ危機の表半分でしかなく、実際には裏側がある。だから、現代の戦争は「見える戦争+見えない戦争=ハイブリッド戦争」と捉えない限り、理解できない。この「ハイブリッド戦争」という言葉は、ジェームズ・マティス米海兵隊中将(後にトランプ政権の国防長官)らが2005年に発表した論文の中で生まれたとされる。
ハイブリッド戦争の定義は、専門家や識者の間でもばらつきがある。防衛白書(令和3年版)は「軍事と非軍事の境界を意図的に曖昧にした現状変更の方法」と説明する。その具体的な手段としては、①SNSを用いた他国世論の操作②国籍を隠した不明部隊を用いた作戦③サイバー攻撃による通信・重要インフラの妨害④インターネットやメディアを通じた偽情報の流布―などを挙げる。
その上で、白書はこうした手段には①相手方の軍の初動を遅らせる②自国の関与を否定する―といった狙いがあると指摘。それに伴い、純然たる平時でも有事でもない幅広い状況、つまり「グレーゾーン事態」が長期継続する傾向にあると強調している。
「令和3年版防衛白書」(編集・防衛省、2021年)
(出所)防衛省
またハイブリッド戦争は、通常兵器で戦う「正規戦」+ 政治・経済・外交やプロパガンダを含む情報・心理戦、テロやゲリラ戦、サイバー攻撃などを公式・非公式に組み合わせた「非正規戦」とも定義できる(参考「ハイブリッド戦争」)。
「ハイブリッド戦争」(廣瀬陽子、講談社現代新書、2021年)
(出所)版元ドットコム
となると、その概念は必ずしも新しいものではない。例えばベトナム戦争(1955~75年)では、北ベトナムと南ベトナム解放民族戦線(ベトコン)が世界最強の米軍に対し、神出鬼没のゲリラ戦を徹底的に展開した。戦場に地下トンネルを縦横無尽に張り巡らし、米軍機を次々に撃墜。圧倒的な戦力の格差を跳ね返し、最終的に米軍に屈辱の撤退を強いたのである。
8年前、筆者はベトナム・ホーチミン市近郊の地下トンネル跡を取材した。その出入口は枯葉に覆われ、上空からは全く確認できない。パソコンやスマホのない時代の精密な設計に驚きを禁じ得なかった。
地下トンネルの出入口(ベトナム・ホーチミン市郊外、2014年5月)
(写真)筆者
地下トンネルの内部取材中の筆者(ベトナム・ホーチミン市郊外、2014年5月)
(写真)筆者
ベトナム戦争での米軍敗北に関し、元欧州合同軍防諜・治安部隊長官のペドロ・バーニョス氏は著書で「隷属させられるくらいなら死んだほうがましだと考えるベトナムの民族性を考慮に入れていなかった」と指摘する(参考「地政学の思考法」)。つまり、「見えない戦争」の部分において、米軍はベトコンに敗れたと言えるのではないか。
「地政学の思考法」(ペドロ・バーニョス、講談社、2019年)
(出所)版元ドットコム
近年、ハイブリッド戦争の注目度が急上昇した契機は、2013年以降のロシアによるウクライナへの直接介入である。同年11月、ウクライナでは親露派のヤヌコビッチ政権がプーチン政権から圧力を受け、欧州連合(EU)との連合協定交渉の凍結を決定。一方、親欧米派が反政府運動を激化させた結果、同政権は崩壊した。
これに対してロシアは2014年3月、「ロシア系住民の保護」などを名目にウクライナ領クリミア半島へ軍事侵攻。クリミア共和国として独立させる形で併合した。以来、今日に至るまでウクライナ危機が続いているわけだ。この間、ロシアが繰り返し仕掛けてきたのが、ハイブリッド戦争のうちの「見えない戦争」である。
その中では、プーチン政権の得意とする「偽情報」の拡散が大きな戦果を上げてきた。例えば、元内閣官房副長官補の兼原信克氏は著書で次のように解説する。
①ある日突然、ウクライナ軍のコンピューターシステムがダウン②ロシア軍特殊部隊と思われる勢力の侵入を知らせる警報が発令③復活したシステムがウクライナ軍に集結を命令④集結場所に集合したウクライナ軍を、ロシア軍が殲滅―。同氏は「集結命令がロシア製のフェイクだったからである」と指摘している。
「安全保障戦略」(兼原信克、日本経済新聞出版、2021年)
(出所)版元ドットコム
こうしたロシアによるサイバー攻撃の対象は、軍事衝突の最前線に限らない。それから遠く離れたウクライナのインフラも標的になり、最初に狙われたのが電力網である。
小泉悠・東京大学先端科学技術研究センター専任講師の著書によると、ロシアのサイバー戦部隊はウクライナの電力企業3社にフィッシング・メール(=送信者を詐称した電子メールを送付して重要情報を盗み出す行為)を送りつけ、ネットワークにマルウエア(=悪意のあるソフトウエア)をインストール。ログインするためのパスワードを入手した上で、ウクライナの電力網を制御できるようにした。
そして2015年12月、ロシアのサイバー戦部隊がウクライナ全土の変電所30カ所に対し、ブレーカーを下ろして電力供給を遮断する信号を送信した。その結果、被害が8万世帯、22万5000人に及ぶ大停電が発生した。小泉氏によると、「サイバー攻撃よって一国の電力網が広範な被害を受けた事例としては世界初の出来事」という。
さらに2016年12月、ウクライナの電力網は再攻撃を受けた。そして17年6月27日の憲法記念日、ウクライナ国内に存在するコンピューターの約30%がマルウエアに乗っ取られ、政府機関や金融機関、インフラ企業の活動がマヒ状態に陥る。「1発の爆弾やミサイルが落ちることもなく、ロシア政府の関与も明らかにされないまま、交戦相手国の国家・社会機能を短時間ながら混乱させた」―。この小泉氏の指摘は「見えない戦争」の本質を浮き彫りにする。
「現代ロシアの軍事戦略」(小泉悠、ちくま新書、2021年)
(出所)版元ドットコム
その後、ロシアのサイバー攻撃戦術は一段と強力かつ巧妙になる。元米陸軍中将でトランプ政権では大統領補佐官(国家安全保障担当)を務めたH・R・マクマスター氏は回顧録の中で、2016年米大統領選に対するロシアの介入を詳述している。
それによると、ロシアは民主党予備選でヒラリー・クリントン元国務長官を貶(おとし)めて左派のバーニー・サンダース氏に肩入れする。一方で、共和党ではトランプ氏を応援した。それによって、「人種や宗教、政治の分極化を通じてアメリカ社会をぐらつかせるという全体的な目標」を設定した。
その全体目標の実現に向け、ロシア側はロシア軍参謀本部情報総局(GRU)のため秘密裏に活動するインターネット・リサーチ・エージェンシー(IRA)を設立。IRAはフェイスブック(FB)を通じて1億2600万人に接触し、ツイッターで1040万本を投稿。ユーチューブに1000本超の動画をアップロードし、インスタグラムでは2000万人とつながったという。
IRAは「主流の報道機関は信じられない」という印象を振りまきながら、「ヒラリー・クリントンを勝たせるために選挙が操作されていた」といった偽情報を盛んに発信した。ただし、マクマスター氏はロシア側が「大半のアメリカ人と同様にドナルド・トランプの勝利を予期してはいなかったようだ」と推察する。
マクマスター氏は「クレムリンは選挙結果がどのように転んでも、アメリカ国民の自国の政治プロセスと制度に対する信頼を弱めるだけでなく、選挙を制した者に対する信用を損ねることができる格好の位置取りをしていた」と指摘する。言論の自由が保障され、開かれた社会ほど、情報の生態系は脆弱性を露呈してしまう。そして、ロシアのハイブリッド戦術は容赦なくそれを狙い撃ちにするというわけだ。
「戦場としての世界」(H・R・マクマスター、日本経済新聞出版、2021年)
(出所)版元ドットコム
なお、廣瀬陽子・慶應義塾大学総合政策学部教授の前掲「ハイブリッド戦争」によると、IRAを運営していた中心人物は「プーチン大統領の料理人」と呼ばれるエブゲニー・ブリゴジン氏。同氏はプーチン氏の故郷サンクトペテルブルクで海上レストランを開いて大成功。プーチン氏がシラク仏大統領やブッシュ米大統領(子)との会食にこのレストランを使い、両者の仲は緊密になったという。
IRAがSNSに大量投稿し、コメントを書き続ける拠点はサンクトペテルブルク郊外にあり、「トロール工場」と呼ばれた。約400人が雇われ、24時間態勢で作業。各自が何十個ものアカウントを持ち、「事前に準備されたスクリプトに従って、ロシア語、英語、その他の言語でSNSにさまざまな情報を書き込みつづけた」―。
先述した通り、ウクライナで親露派政権に対する反政府運動が激化した2013年11月以降、ロシアはサイバー攻撃を主体にハイブリッド戦略を強化した。実は、プーチン政権は事前にそれを示唆するシグナルを世界に送っていた。
2013年2月、ロシア軍制服組トップのゲラシモフ参謀総長が論文を発表。その中で、現代のハイブリッド戦争について詳述していたのだ。
その柱は、①戦争状態と平和状態の境界線が不鮮明になる②戦争はもはや宣言されることなく、見たことのない枠組みに従い開始・進行する③非軍事的な手段の担う役割が拡大、多くの場合において有効性の点で武器を超える―などである。いわゆる「ゲラシモフ・ドクトリン」である。
上記は米CNNテレビの敏腕記者(国家安全保障担当)ジム・スキアット氏の労作を参考にした。同氏は「ゲラシモフは、ロシアがまさに翌年クリミアとウクライナ東部で展開することになる戦略を驚くほど具体的に明らかにしていた」「ロシア連邦軍以外の何者かを装った特殊部隊の配置も含まれていた」と指摘する。
このようにロシアはウクライナへの直接介入の前に、明確な警告信号を発していた。それなのに、当時のオバマ米大統領ほか西側諸国の指導者の問題意識が希薄だった。マイケル・ヘイデン元米中央情報局(CIA)長官はスキアット氏の取材に対し、次のように悔恨の念を吐露している。「まったく予期せぬものだった。ゲラシモフがしっかり書いていたにもかかわらず、我々はそれに目を通しておらず、まったく別の見方をしていたのだ」―。
「シャドウ・ウォー」(ジム・スキアット、原書房、2020年)
(出所)版元ドットコム
超大国といえども、いやだからこそ不測の事態に直面すると、「あり得ない」「信じたくない」と考えてしまう。いわゆる「正常性バイアス」に陥りやすい。そして太平洋戦争を持ち出すまでもなく、小さな判断ミスが積み重なると、無謀な開戦の号砲を鳴らしたり、終戦の判断をいたずらに先送りしたり...。
ハイブリッド戦争では、虚実ない交ぜの情報が氾濫する。だから、破局を招きかねない正常性バイアスのリスクは一層大きくなる。「ゲラシモフ・ドクトリン」の件は後世に伝えるべき教訓のように思う。
一体、なぜロシアはハイブリッド戦争、特にそのうちの「見えない戦争」に傾倒するのか。その理由の1つとして、挙げられるのがロシアの深刻な国力衰退である。
ソ連の体制崩壊・解体時(1991年)の人口は2.9億人だったが、今のロシアは1.5億人と半減。国土面積では4分の1を喪失した。国際通貨基金(IMF)によると、国内総生産(GDP)でロシアは世界11位にとどまり、米国はその13倍、中国9.8倍、日本2.8倍とは著しい開きがある。
GDP上位11カ国(ドル)
(注)値は2021年名目GDP
(出所)国際通貨基金(IMF) "World Economic Outlook, April 2022"
そして国力衰退は当然、軍事費にも映し出される。ストックホルム国際平和研究所(SIPRI)によると、コロナ禍にもかかわらず、2021年の世界の軍事費は2兆1130億ドル(前年比 0.7%増)と過去最高を更新。7年連続で増加し、初めて2兆ドルを突破した。1991年のソ連崩壊後、世界の軍事費は右肩下がりになり、東西冷戦終結が世界に「平和の配当」をもたらした。ところが99年には増勢に転じ、2001年同時多発テロを機に拡大ピッチが上がった。
2021年の軍事費を国別に見ると、1位米国と2位中国の合計で世界全体の半分を超える。一方でロシアは5位にとどまり、米国の1割弱、中国の2割強に過ぎない。ロシア軍の事費の対GDP比は4.1%と世界全体(2.2%)の2倍近くに達し、国家財政への圧迫は疑いようがない。軍事費上位トップ10でロシアを上回るのは、サウジアラビア(6.6%)だけだ。
軍事費トップ10(2021年)
(注)中国、サウジアラビア、ウクライナは見積もり額
(出所)ストックホルム国際平和研究所(SIPRI)
ロシアが「ソ連2.0」、つまり大国復活・領土再拡大を企てても、通常兵器主体の「見える戦争」では財政面で米国や北大西洋条約機構(NATO)、あるいは中国にかなわない。となると、プーチン氏が採り得る選択肢は①費用対効果の高い核兵器の強化②「見えない戦争」によるコスト削減―などに限られてくる。
①に関して、先述の廣瀬氏はプーチン氏が決定した核先制使用の条件緩和(2020年6月)に着目し、「通常兵器に対しても核兵器で反撃しうる」と指摘する(前掲「ハイブリッド戦争」)。このため現下のウクライナ危機でも、ロシアが戦術核(=ミサイル射程およそ500キロ以下、戦場単位で使用想定)を使う可能性を排除できない。
また廣瀬氏は②について、ハイブリッド戦争が「低コストで、大きな効果が得られるというのは現在のロシアにとって極めて重要である」と強調する(同)。プーチン氏の野望と衰退した国力の間のギャップ。それを埋めるためには、ロシアはサイバー攻撃を柱とする「見えない戦争」によって、今後も「最小の費用で最大の効果」を追求していくと考えざるを得ない。
ロシアなど権威主義国家が展開するハイブリッド戦争に対し、日米欧など民主主義国家はどう対処すべきなのか。いや、対処のしようがあるのか。なぜなら、民主主義体制が自由で開放的であるほど、権威主義体制はSNSを悪用したサイバー攻撃など仕掛けやすくなるからだ。その代表例が先述した2016年米大統領選である。
とはいえ、民主主義国家が権威主義国家にならい、市民に対する管理・監視を強化するのは本末転倒。理想論と言われようが、この惑星に生まれただれもが自由を享受できる社会の実現を追求していくべきだと筆者は思う。
無論、自らの自由を守るためには、他人の自由も尊重しなくてはならない。そのためには規律が不可欠になるが、自由主義国家ではそれが崩れ始めている。米国ではトランプ前政権時代、支持政党や人種、地域などをめぐり分断が深刻化。欧州では極右勢力が移民差別を鮮明にすることで、世論の支持を拡大する。日本も格差拡大に対して有効な処方箋を書けない。こうした民主主義陣営の制度疲労あるいは自壊に伴い、中国を筆頭に専制主義国家が間隙を縫う形で台頭したのではないか。
「ミスター・デモクラシー」とも呼ばれる、ラリー・ダイアモンド米スタンフォード大学教授は著書で「異なる民族、宗教、政治的意見を持つ人と頻繁に交流する横断的な社会的絆を持つ人々は、より穏健な意見を持つ傾向がある」と指摘する。だがこのような健全な「横断的圧力」がなくなると、「人々は共通の信念、恐怖、そして恨みなどの狭い世界に囚われてしまう」と警告を発している。
「浸食される民主主義」下(ラリー・ダイアモンド、勁草書房、2022年)
(出所)版元ドットコム
国際NGOフリーダムハウス(本部ワシントン)の年次報告書「世界の自由」は、世界人口を①自由な国家②一部自由な国家③不自由な国家の3つに分類する。2005年は①46.0%→③36.1%→②17.9%の順だったが、2021年には②41.3%→③38.4%→①20.3%と激変している。
米欧日など西側諸国の世界的な指導力が低下する半面、中国などが新興国に対する経済・政治的な影響力を強めた。その結果、今や「自由な国家で生きている」と言い切れる人は、地球上の10人のうち2人に過ぎない。
国家タイプ別の人口シェア
(出所)フリーダムハウス
今、民主主義陣営は自らの政治・経済・社会システムの欠陥に真摯(しんし)に向き合い、その修正を急がなくてはならない。新鮮味を欠く政策を「新しい資本主義」という包装紙で包むだけなら、専制主義陣営の思うツボだろう。自由と規律をいかに両立させていくか、民主主義の原点に返って見つめ直す必要がある。
その原点には自由な報道が含まれる。国際ジャーナリスト団体「国境なき記者団(RSF)」の世界報道自由度ランキング(180カ国・地域、2022年)によると、専制主義国家は軒並みが下位で低迷する。ロシア155位、中国175位で北朝鮮は最下位の180位。ちなみにウクライナも106位にとどまる。
一方、トップ3をノルウェー、デンマーク、スウェーデンが占めるなど、上位には欧州勢が目立つ。米国は42位で、日本は71位と2021年の67位から後退。これについてRSFは「日本の政府・経済界が日常的に大手メディアの経営に圧力を掛ける結果、(メディアによる)自己検閲が広く行われる」などと批判している。
「新聞のない政府と政府のない新聞、いずれかを選択しろと問われれば、わたしは少しも躊躇(ちゅうちょ)することなく後者を選ぶだろう」(ジェファーソン第3代米大統領)―。報道の自由をいったん喪失すれば、取り返しがつかなくなる恐ろしさを肝に銘じたい。
世界報道自由度ランキング
(出所)国境なき記者団
結局、民主主義国家は自ら襟を正した上で、専制主義国家の市民に対して自由がいかに尊いか、素晴らしいかを忍耐強く説得していくしかない。
新聞・テレビなど従来型メディアやSNS、これからはメタバース(三次元の仮想世界)も活用しながら、民主主義国家が専制主義国家との間の「壁」を壊さない限り、ハイブリッド戦争で勝利を収められまい。20世紀に崩壊したベルリンの壁よりも分厚いけれども、あきらめたら未来は決して開かれない。
民主主義が自由と規律を回復し、専制主義を打倒...。その日が来ることを信じよう。チャーチル英首相の遺した言葉をかみ締めながら、筆を置くことにする。「民主主義は最悪の政府形態と言われてきた。ただし、過去に試みられたすべての形態を別にすればだが...(It has been said that democracy is the worst form of government except all the others that have been tried.)」―。
ウィンストン・チャーチル像(ロンドン)
(出所)stock.adobe.com
元時事通信ワシントン特派員 中野 哲也